雪国の怪

彼此10年以上前のことでしょうか
私が住んでいた町は豪雪地帯でして、その日は特に天気が荒れておりました。
朝から続いていた吹雪は勢いを弱めるどころかますますひどくなり、下校時間にもなるとそれはもう凄まじい状態だったと記憶しております。
はあ、どのくらいか?
そうですなあ。
私の通っていた学校ではあまりにひどい天候のときは集団下校をしていたのですが、その日も例に漏れず集団下校となりました。
数人で隊列を組んで下校をしたわけですが、その時は前を歩く学友達が見えなくなるくらい吹雪いてましたな。
尤も、眼など普通に開けていられる状態ではなかったわけですが。
まあそんな状態でしたから私は前の人の肩につかまりながら歩くようにしてまして。
はい、そうですな。
ちょうど百足競争をするときのような隊列になっていたかと思われます。
各々が前を歩く人の肩につかまりながら歩いていたわけです。


学校から私の家までは徒歩で30分くらいだったのですが、そうですなあ、20分くらい歩いた頃でしょうか。
突然凄まじい突風が吹き荒れまして、ええ。
一瞬隊列が乱れたのです。
私は思わず肩から手を離し、突風から身を守るように手で顔を覆いました。
そしてその直後、不思議な事に今まで吹き荒れてた風が止み視界が開けたのです。
本能的に私は周囲の状況を確認しました。
皆が皆立ち止まり周囲を見渡していましたな。
私がふと前方を見たとき、なにやら違和感を覚えまして。
その原因が何か最初はわかりませんでした。
また、風が止んだのはほんの一瞬ですぐさま凄まじい吹雪となりましたから、結局家に帰りつくまでその奇妙な感覚のことは忘れておりました。
途中、前を行く子から「寒い?」などと語り掛けられたり、班長の「もうすぐだぞ!」と言う声に励まされながら歩き、ようやく家にたどり着いたわけです。


そして、家にたどり着いてしばらくすると、ふと先程の違和感の原因に思い当たったのです。
私の前を歩いていた子は確か青い上着を着ていました。
しかし、風が止んだその瞬間は私の前の子は赤い上着を着ていたのです。
その時はまだ「隊列が乱れて順序が入れ替わったのだろう」くらいにしか考えていませんでしたが、翌日学校へ行ってみると赤い上着を持っているという子はいなかったのです。
これ、不思議じゃありませんか?
不思議だけれど怪じゃないと?
ほっほっほ、それはご尤もですな。
そう、私もこの時点では不思議には思っても怖がることはありませんでした。
すぐに忘れてしまいましたしな。


それから、幾許かの月日が過ぎてから、その地に昔から伝わるお化けの話を聞きました。
私は父の仕事に伴い各地を転々としていて、その当時住んでいたところでもいわば新参者でして、その手の話は全く知らなかったのです。
そのお化けとは次のようなものです。


「そのお化けは吹雪の日に現れる。小さな子供のような姿だが赤い身体をしていてほんのり熱を帯びている。そいつが現れるときはそいつの熱で一瞬吹雪が止む。好物は人間の丸焼きで、吹雪で視界が悪い時に友人のふりをして人間の子供に近づき「寒い?」と問いかける。「寒い」と答えると「じゃあ、暖めてあげる」と言いながら身体から火を噴出し、その子を丸焼きにしてしまう。
人はこれを『赤い雪坊主』と呼ぶ。」


ほっほっほ、お察しの通り。
私の見た赤い上着の少年と言うのはどうやらこの『赤い雪坊主』だったようですな。
風が止んだ一瞬から家に着くまでの間、私は彼の肩につかまりながら歩いていたわけです。
途中で「寒い?」と尋ねてきたのもきっと彼だったのでしょう。
定かではありませんが、私はその時猛烈な吹雪に耐えるので精一杯でしたから、きっと何も答えなかったのでしょう。
いやはや、おかげで命拾いをいたしました。
今だから笑い話にできますが、その話を聞いたとき私は本当に怖ろしく思ったものです。


え?嘘臭いですと?
耄碌爺を捕まえてこれはひどい言い様ですな。
ほっほっほ、良いのですよ。
所詮年寄りの与太話ですからな。
信じるも信じないもお客人の自由です。


ああ、すっかり話が長くなってしまいましたな。
茶もすっかり冷えてしまいました。
ちょうどいい頃合ですし、今日はこの辺でお開きといたしますかな。
今は外は吹雪いて降りませんが、吹雪の中を歩く時は是非ご用心を。
十分に暖かい格好で歩かれるのが良いでしょうな。
ほっほっほ。











※この話はフィクションです。全くの出鱈目です。赤い雪坊主なんていません。あしからず